
モスクワ・ソロイスツ合奏団を設立された1992年当時のお気持ちについてお聞かせ下さい。
それはとてもつらい時期でした。ロシアではペレストロイカのピークを迎えており、多くの音楽家たちは、それが経験豊かな者であれ、若者であれ国外に出たがっていました。私はその時、フランスに残ることを決めたモスクワ・ソロイスツの初期メンバーと別れることになったのです。私自身としては、ロシアを離れることは考えたこともありません。私はこの事態についてとても心配すると同時に、動揺していました。そしてある時、親しくしているスヴャトスラフ・リヒテルの夫人であるニーナ・ドルリアクに、オーケストラがフランスに留まることにしたため、今後どうして良いかわからないということを打ち明けました。そうすると、彼女は驚くようなことばをかけてくれたのです。「ユーリ、才能ある若い音楽家たち、音楽院の学生たちは本当にたくさんいて、彼らはあなたの支えを必要としているのですよ。」そこから、当時のモスクワ音楽院の最も優秀な在学生および卒業生から成るモスクワ・ソロイスツを結成する運びとなったのです。それ以来、私たちは共に演奏活動をしています。一番興味深いのは、団員の75 パーセントの者はすでに20 年間在籍していることです。もちろん、今では彼らも大人になり、家族や子どもたちがいます。でもわれわれがこの20 年間一緒に演奏してきたという事実が、私にとってかけがえのないことであり、貴重なことなのです。
今日のモスクワ・ソロイスツの最も優れている点についてご紹介いただけますか。
20 年間にわたって率いてきたアンサンブルについて、特長をひとつだけ挙げることは難しいことです。
世界中のいかなる室内楽団とも一線を画する点はいくつかあると思います。ひとつには、われわれは外国人とロシア人の作曲家による、バロック音楽から20 世紀音楽にいたるまでの極めて幅広いレパートリーを誇っています。また作り出す音―イントネーションと色彩―も極めて特別なものです。私たちは20 年間を費やしてこのような音作りに努めてきました。われわれのアンサンブルの音は世界中のどのオーケストラとも異なるものだと思います。これが音楽と人間の共同体の力というものです。人は20 年もの間一緒に働いていると、一体感を持つようになり、お互いの個々の性質について精通するようになります。これが、演奏する音楽に浸透するようになるのです。
そうやって一体となって演奏するように努める演奏会が、毎回特別なものであり、過去のいかなる演奏とも違うことが、私にとってとても重要なことです。丸暗記したような、うりふたつの演奏などあり得ませんし、常に何か新しく、新鮮なものを見出すことができるでしょう。少なくとも、このことを私たちは目指しています。
弦楽オーケストラに魅了されていらっしゃるのはなぜでしょうか。
それは複雑な質問です。ご存知の通り、私はそもそもヴィオラしか演奏していませんでした。もちろん、ヴィオラにはヴァイオリンやピアノのような膨大なレパートリーがありません。ある時、私は自分が演奏し得る音楽を拡張したり、さまざまな企画や創造的なアイデアを実現したりするために室内楽団を創ることにとても魅力を覚えたのです。そして今や20 年の長きにわたって弦楽合奏団を率いているわけです。この10 年間は交響楽団も率いていますが、弦楽オーケストラはいわば私にとって初恋のようなものでとても大切なものなのです。
森麻季さんの魅力についてお聞かせください。初めて共演した時には、どのような印象を持たれましたか。
森麻季さんとは数年前、前回われわれモスクワ・ソロイスツが来日した折に初めて共演しました。彼女の歌、趣向、そして音楽性にはたちまち魅せられました。私たちのコンサートにソリストとして迎えた森麻季さんとは非常に楽しく、興味深い話をすることができました。そこで、この度の20 周年記念ツアーの企画と東京での演奏会を実現させたいと思った時に、森さんをソリストとして招くことをただちに思いついたのです。彼女が今回の来日公演に参加してくれることを大変うれしく思っています。演奏会の夜に光彩を添えてくれることは間違いないでしょう。

今回のプログラムのそれぞれの作品についての聴きどころを教えてください。
テレマン、バッハ、パガニーニ、そしてチャイコフスキーによる作品のそれぞれについて。
この度の東京での記念公演のプログラムでは、極めて多彩なレパートリーをご披露します。観客の皆さまに楽しんでいただけるように考えたものです。ですから、私自身がさまざまな時代の作曲家による作品を演奏します。最初はテレマンの協奏曲ですが、これはバロック音楽です。次のパガニーニによる協奏曲は、モスクワ・ソロイスツとしか私は披露することはありません。この作品はパガニーニによる四重奏曲の一つを編曲したものですが、これにおいてパガニーニ自身がヴィオラを弾いていたことが、豊かに拡張された、完全なヴィオラ・パートが残されていることからうかがえます。何年も前に、私たちはこれをヴィオラの独奏と弦楽アンサンブルのために編曲しました。さらに私は、チャイコフスキーによる弦楽四重奏曲から有名なアンダンテ・カンタービレを弾きます。
そして、オーケストラは私の指揮によりチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」を演奏します。これはわれわれが20 年間演奏し続けてきた曲のひとつであり、これによって世界的な名声が得ることができました。そしてコンサートの第一部では森麻季さんと共に、バッハのアリアをお届けします。重ねて申し上げますが、このプログラムはとても華やかで、多彩で豊かなものになっていると思います。
20年後の記念行事としては、バシュメットさんとモスクワ・ソロイスツはどのようなことを計画されているのでしょうか。
まずは、その20 年間を生きることから始めねばならないでしょう。次なる20 年がアンサンブルにとって創造的で音楽性あふれるイベントで満たされていることを願いますし、さらなる発展が続くことを期待しています。もっとも、過去の20 年間を振り返り、成し遂げてきたことに思いをめぐらせますと、喜びと誇らしい気持ちに満たされます。中でもロシア、そしてソビエト史上初めてのグラミー賞を受賞し、しかもグラミー賞50周年授賞式でその栄誉を受けたことはとりわけうれしいことでした。多くの素晴らしい演奏会がありましたし、さまざまな国の最高のソリストたちとの協力関係がありました。しかし私は、すべてのアンサンブルが、将来を見据え、斬新で創造的な計画を実現させていって欲しいと思っています。
モスクワ・ソロイスツの15 周年の時には、ロシアにおける39 都市で42 回の演奏会を行うという前例のないツアーを敢行しました。この度の20周年を記念して、われわれはすべての大陸における主要なホールでの演奏を予定した大規模な世界ツアーを行います。20 年という時を経て、私たちにはいろいろと考えるべきことがあり、さらに大きなことに挑むつもりです。
音楽の役割についてお聞かせください。また、バシュメットさんご自身にとって音楽とは何でしょうか。
音楽は私の人生そのものです。この質問にユーモアをもってお答えするならば、音楽は私の趣味であり、転じて職業となったとお話しするでしょう。私にとって音楽とは、芸術の最高の形態です。それは完全に瞬間のもので、人間の感情を焦点としているものです。真の音楽とは人を高め、受容性に富む人間となるよう導きます。しかし、音楽はもちろんある種神聖なものです。ひとつの作品をさまざまな音楽家たちが演奏した時、なぜそれが聴衆に異なった印象を与えるのかについて、完全に説明できる人はいません。
もし私が音楽を学んでいなければ、人生の指針をいかに見出していたか想像することもできません。音楽こそが、日々私に喜びを与えてくれるものなのです。
ユーリ・バシュメット&モスクワソロイスツ合奏団
ソプラノ:森麻季2012年5月28日(月)19:00東京オペラシティ コンサートホール<曲目>
テレマン:ヴィオラ協奏曲 ト長調 <ヴィオラ:ユーリ・バシュメット>
バッハ:<ソリスト:森麻季>
“全地よ神に向かって歓呼せよ”〜カンタータ第51番より
“あなたがそばにいたら”〜「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖」より
“至高者よ、あなたの恵みを”〜カンタータ第51番より
パガニーニ:ヴィオラ協奏曲 〔ヴィオラ:ユーリ・バシュメット〕
チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ
チャイコフスキー:弦楽セレナーデ
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詳しい公演情報はこちらから
posted by Japan Arts at 17:36|
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