2012年03月22日

動画:プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管&ルガンスキー

 動画情報:プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管&ルガンスキー 
       ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」〜第2楽章&第3楽章


プレトニョフのベートーヴェンのピアノ協奏曲といえば自身のピアノによる個性的な演奏で大きな話題を読んだ、グラモフォンのCDが有名です。
昨年11月のモスクワでの公演ではルガンスキーをソリストに迎え、今度は指揮者として同曲を演奏。こちらも、両者のこだわりが随所に見られる精緻な演奏で、新鮮な驚きと美しさを兼ね備えており、魅力的な演奏に仕上がっています。ただの伴奏ではない「協奏曲」。
河村尚子とのグリーグにも期待が高まります。



プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団 2012年日本公演
2012年6月15日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
 ヴァイオリン:樫本大進
2012年6月23日(土) 14時開演 横浜みなとみらいホール
 ピアノ:河村尚子
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公演の詳細はこちらから
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パーヴォ・ヤルヴィにインタビュー(1)

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Q:世界中を回るマエストロにお伺いします。“音楽に国境はない”といわれますが、聴衆の反応は日本とその他の国では違いますか?
A:
もちろん、ところ変われば反応も違います。私は日本の聴衆がとても好きです。とにかく集中して、注意深く熱心に聴いてくれる。非常に正直で、尊敬の念をもって聴いてくれます。私はたびたび聴衆の皆さんが感動する瞬間を感じ取ることができます。
よく演奏直後に会場中一同立ち上がって拍手喝采、ところがその直後、あっという間に会場から姿を消す聴衆がいますね。そういったものとは違い、日本では私と聴衆がどう繋がっていくかを感じることができるのです。本当にすばらしいことです。

Q:日本ではいわゆる名曲が好まれますが、世界のその他の国ではどうですか?
A:
それは人間として自然なことでしょう。我々は自分が知っているものや好きなものを繰り返し聴くことを好みます。ポップス音楽がヒットするのはそういうところにあります。そういったことが必然である一方、レパートリーを広げることは、我々音楽家の使命でもあります。聴衆が限られた曲ばかり聴き続ければ、選択肢も限られて、どんどんと視野が狭まります。世の中にはたくさんの偉大な音楽が存在しています。それを発掘し紹介することが我々のもっとも興味のあることで、その多くの素晴らしい音楽を聴衆にもぜひ知ってもらいたいと思っています。

Q:欧米では知られざる名曲を紹介する機会は多いですか?
A:
はい、フランスでフランス音楽を、ドイツでドイツ音楽を演奏すれば、聴衆は好んで聴きに来るでしょう。パリでメシアンのトゥーランガリラを演奏すれば、チケットは難なく売れます(笑)。でも、それだけではいけないのです。私は常になにか少し違う工夫をして、知られざる名曲を紹介するようにしています。
例えば最近のモスクワでの公演(ロシア・ナショナル管との共演、パーヴォ氏はこのオーケストラは素晴らしいと言っていた)、エストニアの作曲家トゥールの作品を演奏しました。この機会にトゥールは初めてモスクワに紹介されたわけです。私にとって母国であるエストニアの作曲家を紹介することはひとつの使命といっても過言ではありません。それは私がエストニア出身である、ということだけでなく、優れた作品がたくさんあるからなのです。

Q:そういった観点からは、聴衆が新しい音楽を受け入れる傾向にある国はありますか?
A:
聴衆は新しいレパートリーを難なく受け入れてくれますよ。課題は「どんな反応があるか」ではなく、「どうやったらコンサートに足を運んでくれるか」です。私の経験では、コンサートに来た聴衆は新しい音楽に興味を持ち、楽しんでくれます。新しいレパートリーに興味がない人は、公演の告知を見た時点で、怖がって演奏会事態に来ない、という選択肢をとるわけです。

Q:マエストロは現在3つのオーケストラにポジションを持っていらっしゃいますね。以前のシンシナティ響を含めると、アメリカ、ドイツ、フランスのオーケストラと密に関係があったことになりますが、それぞれの音楽作りにおいて、音の特徴や解釈の違いはあるでしょうか?
A:
すべて違います。その中でも特にドイツ•カンマーフィルハーモニー管弦楽団は違います。彼らは小編成のオーケストラとして非常に強い個性を持っています。バロック音楽、古典派音楽を演奏する時には、特別な音作りの手段(奏法)を知っています。さらに彼らは頻繁に室内楽を演奏しますし、オーケストラとして、指揮者なしで演奏することもあります。お互いをよく聴きあう、室内楽合奏団としての伝統があるのです。オーケストラとしては、とても個性ある考え方を持っていると思います。
パリ管は、フランス音楽に求められる非常に美しい音に対する感性があります。と同時に、私自身も驚いたことですが、彼らのドイツ音楽もすばらしい。私は彼らの正統なドイツ音楽の演奏に非常に感心しました。
フランクフルト放送響は、力強く、しかし温かみのある音を持っています。特に金管楽器は極めて優れています。ブルックナーに一番理想的なオーケストラです。
こういったように、それぞれの個性と魅力があるわけです。

Q:フランクフルト放送響とは今回2回目の来日となりますね。パリ管との会心の来日ツアーの後、日本の聴衆はマエストロとフランクフルト放送響の日本公演に期待を高めています。彼らの特質と魅力はどこにあるでしょうか?
A:特に木管パートには若手で優秀な奏者がそろっています。アンサンブルは常にバランスが取れています。彼らは放送オーケストラとして、常にマイクに囲まれているので、高い完成度を要求されます。と同時にとてもエキサイティングにもなれます。
このオーケストラが“ブルックナー・オーケストラ”といわれるほど、ブルックナーには極めて適しているオーケストラだということをご存知ですか?エリアフ・インバルの時代にブルックナー全曲を演奏していますしね。

Q:マエストロは複数のオーケストラのポジションを持たれていますが、オーケストラによってレパートリー、プログラミングをわけていますか?
A:
音楽監督の仕事として、バランスよくプログラミングをする必要があります。パリ管でフランス音楽やロシア音楽ばかりを演奏するわけにはいきません。モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームスにも取り組む必要があります。特に彼らのようなメジャー級のオーケストラは、近現代も含めてバランスよく様々なレパートリーに取り組む必要があるのです。

Q:最近はロシアにも客演されていますが、この経験も音楽作りには生かされていると思いますか?
A:それぞれが互いに影響し合い、音楽作りに生かされます。例えば、ドイツ・カンマーフィルハーモニー管との経験は、他のフル編成のオーケストラとベートーヴェンを演奏するときに役立ちます。ドイツ・カンマーフィルハーモニー管には独特なフレージングがありますが、それはフランクフルト放送響でブルックナーを演奏する際、何らかの形で影響していると思います。
もちろん、ロシアのオーケストラでの経験は、フランクフルト放送を指揮するときに、新しい解釈をもたらしてくれます。どこにも壁はない。互いが影響を与え合うのです。常に心を開いていると、そこには常に答えがあるのです。


パーヴォ・ヤルヴィ指揮
フランクフルト放送交響楽団
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2012年6月6日(水) 19時開演 サントリーホール
曲目:
リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調
 (ピアノ:アリス=紗良・オット)
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調


2012年6月7日(木)19時開演 サントリーホール 
曲目:
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調
 (ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン)
ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調

詳しい公演情報はこちらから

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2012年03月07日

アリス=紗良・オットのインタビュー(パーヴォ・ヤルヴィ指揮 フランクフルト放送交響楽団との共演)

パーヴォ・ヤルヴィと、フランクフルト放送交響楽団との共演を前にインタビューを行いました。
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Q:6月に、パーヴォ・ヤルヴィ指揮フランクフルト放送交響楽団との日本ツアーで演奏していただく、リストのピアノ協奏曲第1番変ホ長調ですが、この作品を最初に演奏したのはいつですか?
アリス=紗良・オット(ASO):
この作品は、14歳の時、私が初めてオーケストラと共演した思い出の曲です。その後もよく演奏していますので、一番長く取り組んでいる作品ですね。

Q:初めてオーケストラと共演する作品に、リストを選ぶなんてとても意欲的ですね。
ASO:この曲は聴いた時から「私にぴったり!」と思える作品でした。テクニック的にも華やかな技巧が必要とされますが、その時は「だからこそ、挑戦してみたい!」と思いましたし、それをマスターしていくことも楽しかったのです。でも、当時と今とではこの曲に対する考え方は大きく変わりました。

Q:どういう風に変化していったのですか?
ASO:この作品に初めて取り組んだ時は、ピアニストがテクニックを披露する曲、というふうに考えていました。リスト自身も素晴らしいピアニストで超絶技巧が有名でしたし、実際にテクニック的にもハードな曲です。しかし、その側面ばかりを追いかけてしまうと、この作品の本質的な魅力に触れることができないかもしれません。
この作品には彼自身の革新的、チャレンジングなところが非常によく表れていると思います。彼は非常に才能に恵まれていましたが、それをさらに磨き続け、自分の人生を自らの手で拓いていった人ですよね。そんな彼の人生を、この作品の中で表現したいと思っています。それから全ての楽章を通して演奏するというスタイルも独特です。彼の伝統的なものを超越したいという意図があるように感じますし、駆け抜ける!というイメージにもリストらしさを感じます。

Q:パーヴォ・ヤルヴィ氏とは、すでに何回か共演なさっているのでしょうか?
ASO:
今までに2回共演しています。最初はシンシナティ交響楽団とリストの協奏曲を、次はフランクフルト放送交響楽団とラヴェルの協奏曲を演奏しました。

Q:リストのピアノ協奏曲を共演した時に、パーヴォ・ヤルヴィ氏からいただいたアドバイスで印象的なことはありますか?
ASO:そうですね。本当にたくさんのことをアドバイスしていただきました。マエストロの解釈はとてもユニークですし、共感できることも多いです。ここはもう少しジャズっぽく感じてみたら・・・なんてアドバイスしていただいた部分もあります。
マエストロとの共演は、毎回とても楽しみです。というのも、マエストロは私の音楽、私が表現したいことを、いつも大切にサポートしてくださるから。ソロで演奏する時は、すべて自分自身の責任、自分が演奏したいものをそのまま皆さまにお届けする・・・というイメージですが、オーケストラと共演する時は、マエストロやオーケストラとのアンサンブルが非常に大切になりますよね。ですから、100%自分の演奏したいように演奏できるわけではありません。
それがマエストロ ヤルヴィの指揮だとオーケストラが、とてもフレキシブルなんです!私も即興とまではいきませんが、自由にその時に感じたものを演奏していると、それについてきてくれて、サポートしてくださるんです。さらにオーケストラの演奏が私にインスピレーションを与えてくれて、またまた新しい何かがステージの上で生まれる!ライブのステージでしか味わえない、エキサイティングな演奏ができるのです。ピアニストとして最高の時間を過ごすことができるんです!

Q:そういう信頼関係って大事ですよね。
ASO:
そうですね。絶対的な安心感がありますから、私も私らしく演奏できます!それに、私はマエストロやオーケストラと一緒に音楽を作っていきたい!音楽という共通の言葉で伝えていきたい!と思っていますから、今回の共演は本当に楽しみです。

Q:パーヴォ・ヤルヴィ指揮フランクフルト放響との日本ツアーの後の予定を教えていただけますか?
ASO:
ロシアのサンクトペテルブルグで行われる白夜祭でリサイタルを行い、それをライブ録音する予定です。(モーツァルト:デュポールのメヌエットによる変奏曲 KV.573/シューベルト:ピアノソナタ第17番 ニ長調 D.850/ムソルグスキー:展覧会の絵 )
秋にはそのプログラムで、日本ツアーも行います。

Q:前回の来日は、ちょうど1年前でしたね。
ASO:
昨年はお正月(1月1日)に日本に来て、NHKニューイヤーコンサートで演奏させていただいたり、各地でリサイタルを行ったりしましたが、その後は来日するチャンスがありませんでした。東日本大震災が起き、ずっと日本のこと、日本の皆さんのことを心配し続けてきてきましたが、こうしてようやく日本に来ることができました。

Q:震災のことはどのように知ったのですか?
ASO:
ウィーン交響楽団とのツアー中に、友人からのメールで知りました。いつもは賑やかなメンバーが、シーンとしていたことをよく覚えています。被害を受けた地域の中には、私もツアーなどで行ったことがあるところもあって、ショックを受けました。
すぐにヨーロッパで何か私にできることはないかと思い、いくつかのチャリティコンサートに出演したのですが、それだけでは満足できませんでした。できるだけ早く皆さんのところに行きたかったのです。ですから、今回仙台やその周りの地域でチャリティコンサートを行えて本当に良かったです。それから、もうひとつお話したいのですが、震災の時に皆さんが、非常に冷静に思いやりを持った行動をとられていたことに心から感動しました。私は今まで、ドイツ人と日本人のハーフ、ということで悩んだり、辛い思いをしたりしたことがありましたが、私の中に日本人の血が流れていることを心から誇りに思いました。


パーヴォ・ヤルヴィ指揮
フランクフルト放送交響楽団
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2012年6月6日(水) 19時開演 サントリーホール
曲目:
リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調
 (ピアノ:アリス=紗良・オット)
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調


2012年6月7日(木)19時開演 サントリーホール 
曲目:
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調
 (ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン)
ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調

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ゲルギエフ指揮 復興音楽祭の模様が放映されました。

*2012年3月1日
  5:00 総合テレビ NHKニュースおはよう日本(全国)
  5:50 BS1   BSニュース(全国)
  6:30 総合テレビ NHKニュースおはよう日本(全国)

webでもご覧いただけます。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120301/t10013394281000.html

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2012年03月05日

プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団 2月25日モスクワ公演

2012年2月25日にモスクワ音楽院大ホールで行われた公演の現地レポートをお届けします。

ミハイル・プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団
2012.2.25(土)モスクワ音楽院大ホール

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≪演奏曲目≫
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
        ソリスト ヴィクトリア・ムローヴァ
- - - - - - -
グラズノフ:演奏会用ワルツ第1番 ニ長調 作品47
       交響組曲「中世より」 作品79
            プレリュード(Allegro)
            スケルツォ(Allegro assai)
            セレナーデ・トゥルバドゥーレ(Andantino)
            フィナーレ、十字軍戦士たち(Allegro)
       バレエ音楽「ライモンダ」より「スペイン舞曲」作品57

RIA-402705-Original.jpg 今、最も関心を持たれているヴァイオリニスト、ヴィクトリア・ムローヴァは、今年、ベルギー、パリ、ヘルシンキでブラームス協奏曲を弾き、この2月25日にはプレトニョフ芸術監督ロシア・ナショナル管弦楽団(RNO)とまさに輝かしいばかりの競演を遂げ、ロシアのファンをわかせた。様々な楽器とジャンルをこなすムローヴァは、それぞれの様式と奏法を経て、1723年作ストラディバリの可能性を最大限に追求した、透明感のある詩的な音響でRNOとのデヴューを飾った。
 続く2部では、驚くほど爽やかな音響で、プレトニョフの感性の光るグラズノフの演奏会用ワルツ第1番が奏でられ、その自然で極めて繊細な流れの持続に、また、メロディーの収めにも細心の注意が払われた静かな指揮ぶりに息を飲んだ。フルートと管の織りなす旋律線の美しさ、リズムの輪郭の明瞭さ、弦セクションの上行下行の動きの煌きと融合、これらの推移にプレトニョフの聴覚のよさを感嘆し続けるのである。メロディーが時に民族調に時にかすかに陰り、管と弦の響きは美的調和をなし、一貫して瑞々しいグラズノフのワルツに内在するヨハン・シュトラウスに見紛う軽やかさを描き出した。RNOの柔らかくしかも充分に響き渡る音響は、クライマックスに至って溢れんばかりの愛情に満たされた生成を生む。舞曲でありながらプリミティブなダンスではなく、高次の「静」に保たれた指揮の姿は、独特の魅力ある感性を我々聴き手に印象付けた。

 中世の十字軍を模した重厚な交響組曲「中世より」は、管弦楽法の優れたグラズノフの傑作の一つである。プレリュードの堅牢な立ち上がりから潜在的にかきたてられる錯綜があり、低音の三和音のペダル上の分厚い響きに、それぞれのセクションの性格と動きが極めて知性的な解釈を経て濾過され、プレトニョフの明晰な頭脳の一端を垣間見るようである。例えば下行ゼケンツの静まりに対し上行の力強さ、打楽器の増幅といった遠近感の明確な構築が浮かび上がり、その腕に恐れ入る。続くスケルツォの5度音程のトレモロから音域の移行に遊び心が展開され、旋律の反復と音域を拡大、追いかけっこを楽しみ、シロフォンの縁どりの質感や、瞬時の音色変化など転換の上手さは言うまでもなく、中世の街を闊歩する騎士リチャードに成りきったプレトニョフのときめきが伝わってくるような「スケルツォ」の醍醐味を味わった。そして、たおやかなハープの和声進行の持続に、弦が静かな起伏を描くセレナーデ・トロバドーレでは、プレトニョフによるセクションの見事な綾が端正に紡がれていき、綿密な分析的構図が明かされるのである。ホルンのファンファーレがエコーするフィナーレ・クレスタノスチ(十字軍戦士)では劇的な展開をしながらも、プレトニョフの「動」の中に常に「静」の哲学的境地が存在し、ポリフォニックな光の洪水をじっと見守っている。これは、プレトニョフによるグラズノフの歴史的名演である。彼のリズミカルな動き、真っ直ぐに振り下ろされる縦の響きの深みと純粋さ、円、上部の三角形の纏まり、水平に続く流れ…
 指揮の姿は幾何学的美しさがある。そして、からっと乾燥した空気や手触りの質感があり、そこに整然としたマーチなどの回想が描かれる。音楽は威厳ある朗らかさに満たされ、地鳴りのような低音から高音域までの音響を同時に我々にも直感させる。
 最後にバレエ音楽「ライモンダ」からスペイン舞曲の選曲で、ワルツに循環する。再び聴き手は、軽やかなロマンティックな、プレトニョフのグラズノフ舞曲に回帰し、明るさ、安らぎを取り戻す。カスタネットの華やかなリズムがスペインの記憶を揺さぶり、胎響を聴く純粋さで森羅万象をあるがままに受け入れる彼の世界観を、瑞々しい穏やかな恩寵の中で追体験していく。光の画家ならぬ、音の波長で光を表現する指揮者ミハイル・プレトニョフ。プレトニョフとRNOは1週間前にグラズノフ交響曲6番を、昨年は5作品ものグラズノフを演奏し、多くのロシアの聴衆にその天才性を披露している。若きグラズノフが好んだ中世西ヨーロッパの文化に浸り、騎士道のロマンに触れた贅沢な一夜だった。

文:中川 幹(モスクワ大学 准教授)
写真:V.Vyatkin, RIA Novosti

プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団 2012年日本公演
2012年6月15日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
 ヴァイオリン:樫本大進
2012年6月23日(土) 14時開演 横浜みなとみらいホール
 ピアノ:河村尚子
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