2012年04月09日

プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管弦楽団 パリ公演レポート

パリ サル・プレイエル 3月26日(月)
<プログラム>
グラズノフ:組曲「中世」〜プレリュード
プロコフィエフ:チェロ協奏曲第2番(交響的協奏曲)(チェロ:ゴーチエ・カプソン)
休憩
グラズノフ:交響曲第6番
アンコール グラズノフ:バレエ「ライモンダ」〜「スペイン舞曲」
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 アレクサンドル・グラズノフがフランスのクラシックコンサートで取り上げられることはきわめて珍しい。音楽愛好家よりもむしろバレエファンの方が「ライモンダ」の作曲家として記憶にとどめているかもしれない。それだけに、当日会場に入ってほぼ満席の盛況なのにちょっと驚いた。何しろ同じ時刻にオペラ座(ガルニエ)ではレハールの人気作「メリー・ウィドー」がスーザン・グラハムとボー・スコーフスという組み合わせであり、シャンゼリゼ劇場ではパリでも人気の高いレイフ・オヴェ・アンスネスがショパンの「ノクターン」と「バラード」とドビュッシーの「版画」と「映像・第1集」とを弾いていたからだ。
 ロシア・ナショナル管弦楽団のロシア音楽の夕べは何よりもパリでは滅多に聞けない曲が並んだのが魅力だった。指揮者のミハイル・プレトニョフは19世紀から20世紀への転回点に書かれたグラズノフの二作品(1902年と1896年)の間に、スターリンによる文化粛清時代の1952年に初演されたプロコフィエフ作品をはさみこむことで、20世紀前半のロシアがいかに激動し、全てが変わってしまったことを聞き手に体感させた。
 最初に取り上げられたのは「組曲:中世から」のプレリュードだった。終生オペラを書かなかったグラズノフだが、物語を管弦楽で表現しようとした作品は民衆の英雄を題材にした交響詩ステンカラージン」をはじめ、「森」「海」「春」といった作品を残しているが、「中世」もその系統に属する。「プレリュード」は「海辺の城の中。灰色の波頭のうねりも目に入らず、嵐の雄たけびも聞くことなく、若い二人は恋の静かな陶酔に身を委ねている」。嵐と叙情的な楽想が交互にあらわれ、情景を描き出していく。無駄のないコンパクトなプレトニョフの腕に導かれ、やわらかな弦楽器がよく揃い、管楽器が繊細な音色で甘い一幅の絵を織り成していく。副コンサートマスターを初め、若い女性ヴァイオリニストが目立つ。
 このロマンチックな出だしと対照的だったのが、プロコフィエフ最晩年の「チェロ協奏曲」だ。ゆったりとした旋律の流れるグラズノフから20世紀の非連続な音の世界が続けて演奏されただけに、その対照は鮮やかで半世紀の時の流れがどの聞き手にも手に取るように感じられた。
 独奏者はフランス人に人気のあるゴーチエ・カプソンだった。ロストロポーヴィチのために書かれ、「チェロのあらゆる技法と表現の可能性を探求した」だけに、単なるヴィルトゥオーゾには手が届かない。独奏者の詩情の不足を補って余りあったのが静かな吸引力を持ったプレトニョフが自在に操ったオーケストラだった。
 休憩後はグラズノフの「交響曲第6番」で再び悠揚とした時間が流れていた19世紀に遡行した。厳かな深みのある低弦でスタートし、第二楽章(アンダンテ)ではあくまでも穏やかで優しいテーマが耳を捕らえる。澄んだ中にもメランコリーを湛えたクラリネットのソロは秀逸だ。最終楽章のフィナーレではシンバルの連打とトロンボーンの厚みのある音が咆哮し、華やいだ音の祭典となった。抑制された身振りと鋭い視線のプレトニョフが自在にオーケストラを操っている姿そのものも観客にとっては見逃せないスペクタクルとなっていた。

三光 洋(音楽ジャーナリスト / パリ在住)



プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団 2012年日本公演
2012年6月15日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
 ヴァイオリン:樫本大進
2012年6月23日(土) 14時開演 横浜みなとみらいホール
 ピアノ:河村尚子
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公演の詳細はこちらから

posted by Japan Arts at 14:13| レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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