2012年05月23日

ブルックナーをめぐるパーヴォ・ヤルヴィとの対話

取材・文/舩木篤也
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 ブルックナーの交響曲は、特別な人のための特別な音楽なのだろうか。自然。宇宙。神。形而上学。その巨大さにひれ伏し、少なからぬ人がそんなことばを口にする。秘儀としてのブルックナー体験? パーヴォ・ヤルヴィはこう言う。
 「儀式的なものは、それが論理的であるならば重要でしょう。あなたが観光客として教会堂に足を踏み入れ、突然、礼拝にまぎれ込んだとしましょう。人々が立ち上がり、歌い、また座る。僧侶が何かを言っている。もしあなたが同じ信仰を持たなければ、わくわくするものを感じはしても、『なぜ』というところが分からない。いっぽう、ラテン語を解し、その宗教で育った人たちにとっては、セレモニーはあくまで論理的です。参加している各成員が、ただ見ているだけの部外者とは違い事柄を理解し、そういう仲間の一員だと感じています」
 ムードにただ身をひたすのではなく、キリスト教文化と、それが生んだ音楽史の筋道を知ったうえで、パーヴォは私たちをブルックナー・ワールドに導いてくれるのだろう。フルトヴェングラー、カラヤン、ヴァント、アーノンクールといった先達のブルックナー解釈者たちの間に、「脱神秘化の行き方」を見い出し、「それは過ぎてもいけないが」としながらも、「私も重要だと考えています」と彼は言った。このあたりに、パーヴォの方向性が見えてこないだろうか。
 そう、彼はブルックナーを、交響楽のきわめて伝統的なライン上にとらえる。ブルックナーは基本的にハイドンと同じだとさえ言う。「唯一違うのはワーグナー・テューバを使う点でしょう」とは、いかにも彼一流の論争的発言だが、「4楽章制をとり、ソナタ形式を含み、オーケストレーションはきわめてオーソドックス。同じ思考、同じ構造を持っている」と言われれば、たしかにそうだ。
 「私がブルックナー演奏でやろうと努めたことは、ベートーヴェンやシューマン、そしてブラームスに対して行ったのと同じこと、つまり、伝統を無視しないということです。私は指揮者の家に育ちましたから、伝統が何であるか知っています。けれども、伝統と、伝統のもとに有機的に成長した音楽との間にある論理は、こちらから見出すべきものです。植物と同じで、音楽は成長してゆく。近道はない。適切なペースというものがある。クライマックスにも必然性というものがある」
 いっぽうでパーヴォは、ブルックナーが「人間」であることを示したいと言う。「音楽が述べているのは、人間が神と結ぶ関係であって、神そのものではありませんから」。そして、今回の来日公演でとりあげる第8交響曲こそ、パーヴォの理解では、最も人間的な交響曲ということになる。
 「第8は、ブルックナーの他のどの交響曲とも違います。第7でようやく認められ、世の中に好かれたいと思ったのですね。神に恃むのではなくて。皇帝に作品を献呈したのもそのためです。権威ということを考えた。政治についても、それまで関心などなかったのに、神と自然との内なる関係をいうのが普通だったのに、突然、ドイツのミシェル(19世紀国粋主義の象徴)がうんぬんなどと言い始めた。ちょっと奇妙なくらいドイツ的文化の優位をアピールするようになるのです。第4楽章について、ここでロシアとオーストリアの皇帝がまみえるなどと書き残しており、力強いコサック騎馬隊のリズムがあそこで聞こえます。
 また女性や愛についても、以前は扱ったことがありませんでしたが、ハープを初めて使っているでしょう。ワーグナーが劇音楽で愛を描くのに用いた楽器ですね。ほんらい純真なブルックナーが、自信を得て、自分の枠を越え出ようとしているのです」
そういえばギュンター・ヴァントも生前、第8を指して、ブルックナーが唯一世俗の成功をねらった作品であり、それが音楽に出ていると言っていた。
 「『らしくない』からなのですね。しかし、ブルックナーのやり方はとても人間的で、感動的なものです」
 なお、パーヴォ・ヤルヴィは、第8交響曲をノヴァーク校訂1890年稿(第2稿)で演奏する。

2012年3月30日 ベルリンにて



パーヴォ・ヤルヴィ指揮
フランクフルト放送交響楽団
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2012年6月6日(水) 19時開演 サントリーホール
曲目:
リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調
 (ピアノ:アリス=紗良・オット)
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調


2012年6月7日(木)19時開演 サントリーホール 
曲目:
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調
 (ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン)
ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調

詳しい公演情報はこちらから

posted by Japan Arts at 17:36| 聴きに行こう!オーケストラPR | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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