2012年06月14日

『完璧なチャイコフスキー交響曲第4番』プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管 相模大野公演レポート

≪公演情報≫
6月13日(水)19:00 グリーホール相模大野・大ホール
プログラム:
グラズノフ:「中世より」Op.79~前奏曲
チャイコフスキー:憂鬱なセレナーデ (ヴァイオリン:樫本大進)
            ワルツ・スケルツォ/懐かしい大地の思い出
ベートーヴェン:ロマンス第2番 へ長調
チャイコフスキー:交響曲第4番
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 ミハイル・プレトニョフが祖国ロシアの作曲家の作品を演奏するとき、ベートーヴェンやドヴォルザークを演奏するときに見せる作品に新たな光を当たる個性的な演奏は影を潜める。常々「従来どおりのやり方が正しいのなら新しい演奏の可能性などなくなってしまう。私はオリジナルな存在なのです。」と語り、ある意味挑発的、挑戦的な演奏を繰り広げてきたにも関わらず・・ それは自分のアイデンティティ、ロシア芸術への誇り、そして我こそがロシア音楽芸術の伝統を引き継ぐ最高の体現者であるという強烈な自負と高らかな宣言なのかもしれない。
 相模原で演奏されたチャイコフスキーの交響曲第4番はため息がでるほどの完璧な演奏だった。輝かしいファンファーレ、「現実」と「幸福な夢」の亀裂と交錯な描写。第2楽章のメランコリックなオーボエ・ソロと甘美な思い出の歌、第3楽章の幻想的なピッツィカートでの合奏。第4楽章の祝祭的な盛り上がりと疾走感。自らが創設し、鍛え上げたオーケストラの最高の演奏技術をベースに完璧な演奏を繰り広げる。
 プレトニョフはオーケストラをコントロールした上で音楽の持つ「感情」をもコントロールする。常に冷静に客観的な視点を保ちながら音楽が感情過多、あるいは不足に陥らないように気を配る。人によっては情熱が不足していると感じるかもしれない。しかしそこがプレトニョフの狙いだ。作曲家が音符を譜面に書いたとき、その音符たちは感情を持つ。
 それを尊重し、忠実に再現するためには奏者の余計な感情移入は不要なのだ。書かれた音符の持つエネルギー、感情を忠実に再現すること、それが作曲家への最大の敬意だと考えているのだ。「インスピレーションを楽譜に書き、和声を付け、演奏できる形にする。そしてそれを演奏した時には、その音楽が最初に天から聞こえてきた時のものと同じにならなければいけない。それが作曲のプロセスだと思います。傑作と呼ばれる作品はこれ以外の方法では絶対に書けない完璧な形で書かれています。」
 プレトニョフと彼のロシア・ナショナル管はチャイコフスキーの意図を完璧に表現する。そして聴き手は感情を無駄に掻き立てられることのない中庸な音楽的感興と興奮を覚える。「私は自分の心の中で感じ、聞こえてくるイメージに忠実に演奏したいのです。評論家や音楽に詳しいファンが満足するような演奏方法も知っているし、そう演奏できないこともないですが、それではつまらないし、私の中で音楽をする動機がなくなってしまいます。」
 良い(GOOD)指揮者は沢山存在する。しかし特別(GREAT)な芸術家は一握りだ。勿論ミハイル・プレトニョフは紛れも無くその一人である。



プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団 2012年日本公演
2012年6月15日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
 ヴァイオリン:樫本大進
2012年6月23日(土) 14時開演 横浜みなとみらいホール
 ピアノ:河村尚子
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2012年06月12日

プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団 台湾公演レポート

日本公演を直前にプレトニョフ率いるロシア・ナショナル管弦楽団は6月9日・10日に台湾の彰化市 (Changhua市)のスタジアムで2回公演を行いました。
両日とも5,000〜6,000人の大観衆が熱狂のスタンディング・オベーションで終わるという大成功を収め、プレトニョフの人気の高さを改めて感じる公演となりました!
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この2公演に先駆け、6月8日に台北市内で行われたマエストロ・プレトニョフとソリストのナタリア・グットマンによる記者会見が行われました。
記者会見でマエストロ・プレトニョフはこの様に述べました。「この機会に皆さんにお伝えしたいことがあります。2000年を超える長い人類の歴史の中で、私達人間が行ったことの多くは残念ながらネガティヴなことでした。戦争、騙し合い、利益を求めての闘争。その様な中で人類が創り出した素晴らしいものとして誇れるのは”文化”です。人類の行いとして神の前で誇れるのは文化以外に無いのではないかと思います。特にクラシック音楽は豊かな芸術で、300年前の作曲家と近現代の作曲家、例えばバッハとショスタコーヴィチを一緒にプログラムに入れることが出来るというのは素晴らしいことです。
こういった文化の尊さを伝えてくださることの出来るのは、今目の前にいらっしゃるジャーナリストの方達であり、私はその事において皆様に感謝したいと思います。」
このマエストロの言葉により、盛大な拍手の中で終わりました。

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記者会見の壇の後ろには今回の公演の大きなポスターが貼られていました。

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彰化市長からマエストロとソリストのグットマンに獅子のお面が贈られました。

贈られた獅子のお面を持って喜ぶマエストロ
(左から グットマン、彰化市長、マエストロ)

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いよいよスタジアムでのリハーサルが始まります。

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ステージの両脇には、スタジアム内に舞台の模様を映し出す大スクリーンが設置されていました。
遠く離れた客席でも演奏するメンバーの表情まで細かく見ることが出来、臨場感が生まれます。

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プレトニョフはメンバーを押さえつけることなく、各自の持っている能力を最大限引き出すというもの。
信頼を得てメンバーは伸び伸びと音楽を表現し、生き生きとした幸せな音楽が生まれることになります。



プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団 2012年日本公演

2012年6月15日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール

 ヴァイオリン:樫本大進
2012年6月23日(土) 14時開演 横浜みなとみらいホール
 ピアノ:河村尚子
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2012年05月30日

“様々な音色を奏でるメストレのハープ”王子公演レポート

5月28日グザヴィエ・ドゥ・メストレ(ハープ) 王子ホール

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<曲目>
ヘンデル:ハープ協奏曲 変ロ長調 Op.4-6
ペシェッティ:ソナタ ハ短調
メンデルスゾーン:舟歌 ト短調 Op.30-6(1835)
パリシュ=アルヴァース:大幻想曲 「マンドリン」 Op.84
ルチェッロ:オーボエ協奏曲(ハープ版) ニ短調
ヴィヴァルディ:フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 KV299
ゴドフロワ:ヴェニスの謝肉祭 Op.184

ステージの上。
ハープの横に立つすらっと背が高い貴公子、メストレ。
彼がハープを弾き始めると「女性の楽器」のイメージが強いハープがガラリとそのイメージを変えます。
“ギターのような音色” “ピアノのような響き” そして “ハープ独特の優雅に流れる調べ” 様々な音色で、心地よい「ヴェネツィア」の世界へ誘ってくれました。
特に、パリシュ=アルヴァースの大幻想曲「マンドリン」やゴドフロワの「ヴェニスの謝肉祭」は彼の超絶技巧を完璧に堪能でき “優しいハープ”のイメージをいい意味で完全に裏切ってくれます。
美しいハープの響きに一気に引き込まれ、情緒豊かな旋律に酔いしれること間違いなしです。


 
【これで予習!】
メストレ、2012年来日記念盤『ヴェネツィアの夜』が発売中!
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「ハープの貴公子」メストレの新録音は、オーストリアのピリオド楽器によるオーケストラ、ラルテ・デル・モンドと共演のアルバムです。ヴィヴァルディとマルチェッロのバロックの巨匠たちのヴァイオリンやリュートやオーボエのための名曲をハープ用にアレンジして、聴き手を17世紀のヴェネツィアに誘います。マルチェッロのオーボエ協奏曲のアダージョ「ベニスの愛」や「アルビノーニのアダージョ」など、有名曲を多数収録。
¥1,467(税込)
Sony Music Shop


日本来日公演!
≪メストレ&ラルテ・デル・モンド≫

2012年6月1日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
ヴィヴァルディ:歌劇《オリュンピアス》より序曲 RV.725 ★       
ヴィヴァルディ:ハープ協奏曲ト長調 RV.299 (原曲 ヴァイオリン協奏曲集 Op.7より 第2集-8)★アルヴァース:マンドリン                   
マルチェッロ:ハープ協奏曲 ニ短調 (原曲 オーボエ協奏曲) ★               
ドゥランテ:弦楽のための8つの協奏的四重奏曲 ヘ短調                
ヴィヴァルディ:ハープ協奏曲 二長調 R.V.93 (原曲 リュート協奏曲) ★         
ヴィヴァルディ:「四季」より“冬” ヘ短調 ★                       
★ハープ独奏 グザヴィエ・ドゥ・メストレ
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2012年05月28日

【レポート】ユーリ・バシュメットによるマスタークラス

5月2日東京音楽大学にて3名の学生を対象にマスタークラスが行われました。
受講生はそれぞれ
 ヒンデミット:白鳥を焼く男より第1楽章
 ヒンデミット:ヴィオラ・ソナタ
 レーガー:ヴィオラのための無伴奏組曲より第2楽章
を演奏しました。
クラスには約150名もの方々が足を運んでくださり、熱心に見学していました。


 リラックスして、楽器を美しく響かせること、作品のもつ表現を最大限にひきだす説明をする一方で、演奏者は演奏の基本的な事項、テンポ、ダイナミックス、リズム、音程に対する緻密な分析が必要であることを力説していました。
 黒い丸首長袖シャツに黒のデニム・パンツ。眼鏡をややルースに傾けたユーリー・バシュメット氏は、じっと演奏に耳を傾けながら、譜面台の前で緊張気味に音を奏でる演奏者の動きを目で追い、デスク手元のスコアをペンでマークします。
 「ソロの演奏はね“時間”“あなた”“音色“… 全ては貴方が支配するもの。他の誰もいないのです。しっかりと自信を持ってやってみてください。」と、微笑みながらもじっと目を光らせ説明します。3回、4回、最初の部分を演奏してもらい、コメントを繰り返し、丁寧に受講生の方と向き合います。
「まず、出だしは4四拍子」デスクから立ち上がったバシュメット氏は、ステージの上で1・2・3・4・と一歩ずつ歩いてみせて「これが四拍子です」と語りかけます。次に、少し前かがみになり「1・2・3・…4つ…」と半回転してみせます。「今のはこんな風に聴こえましたね?」時には受講生の気持ちを和らげるかのごとくおどけて見せながらも、テンポ、リズムに対しては厳格なまでに何度も力説してました。その上で、聴き手に説得力をもった演奏を行うために何を注意すべきか、全体の構成をどう考えるべきかという話を色々な例えを通じて説明していました。それぞれの受講生の方々の良いところ伝えながら、優しい眼差しで、その人に合った正しい方向へと丁寧に導くバシュメット氏。

 マスタークラスを通じて、あのバシュメット氏の天衣無縫、自由で広がりのある魅力的な演奏の裏に、演奏家としての音楽に対する厳しい姿勢や深い愛情、溢れんばかりのアイデア、驚くばかりの研究、途方もなく時間をかけた試行錯誤がつまっていることを改めて痛感しました。

 今夜のバシュメット氏とモスクワ・ソロイスツの演奏会での彼の演奏がたいへん楽しみです。


ユーリ・バシュメット&モスクワソロイスツ合奏団
ソプラノ:森麻季

2012年5月28日(月)19:00東京オペラシティ コンサートホール

<曲目>
 テレマン:ヴィオラ協奏曲 ト長調 <ヴィオラ:ユーリ・バシュメット>
 バッハ:<ソリスト:森麻季>
  “全地よ神に向かって歓呼せよ”〜カンタータ第51番より
  “あなたがそばにいたら”〜「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖」より
  “至高者よ、あなたの恵みを”〜カンタータ第51番より
 パガニーニ:ヴィオラ協奏曲 〔ヴィオラ:ユーリ・バシュメット〕
 チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ
 チャイコフスキー:弦楽セレナーデ

詳しい公演情報はこちらから

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2012年04月09日

プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管弦楽団 パリ公演レポート

パリ サル・プレイエル 3月26日(月)
<プログラム>
グラズノフ:組曲「中世」〜プレリュード
プロコフィエフ:チェロ協奏曲第2番(交響的協奏曲)(チェロ:ゴーチエ・カプソン)
休憩
グラズノフ:交響曲第6番
アンコール グラズノフ:バレエ「ライモンダ」〜「スペイン舞曲」
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 アレクサンドル・グラズノフがフランスのクラシックコンサートで取り上げられることはきわめて珍しい。音楽愛好家よりもむしろバレエファンの方が「ライモンダ」の作曲家として記憶にとどめているかもしれない。それだけに、当日会場に入ってほぼ満席の盛況なのにちょっと驚いた。何しろ同じ時刻にオペラ座(ガルニエ)ではレハールの人気作「メリー・ウィドー」がスーザン・グラハムとボー・スコーフスという組み合わせであり、シャンゼリゼ劇場ではパリでも人気の高いレイフ・オヴェ・アンスネスがショパンの「ノクターン」と「バラード」とドビュッシーの「版画」と「映像・第1集」とを弾いていたからだ。
 ロシア・ナショナル管弦楽団のロシア音楽の夕べは何よりもパリでは滅多に聞けない曲が並んだのが魅力だった。指揮者のミハイル・プレトニョフは19世紀から20世紀への転回点に書かれたグラズノフの二作品(1902年と1896年)の間に、スターリンによる文化粛清時代の1952年に初演されたプロコフィエフ作品をはさみこむことで、20世紀前半のロシアがいかに激動し、全てが変わってしまったことを聞き手に体感させた。
 最初に取り上げられたのは「組曲:中世から」のプレリュードだった。終生オペラを書かなかったグラズノフだが、物語を管弦楽で表現しようとした作品は民衆の英雄を題材にした交響詩ステンカラージン」をはじめ、「森」「海」「春」といった作品を残しているが、「中世」もその系統に属する。「プレリュード」は「海辺の城の中。灰色の波頭のうねりも目に入らず、嵐の雄たけびも聞くことなく、若い二人は恋の静かな陶酔に身を委ねている」。嵐と叙情的な楽想が交互にあらわれ、情景を描き出していく。無駄のないコンパクトなプレトニョフの腕に導かれ、やわらかな弦楽器がよく揃い、管楽器が繊細な音色で甘い一幅の絵を織り成していく。副コンサートマスターを初め、若い女性ヴァイオリニストが目立つ。
 このロマンチックな出だしと対照的だったのが、プロコフィエフ最晩年の「チェロ協奏曲」だ。ゆったりとした旋律の流れるグラズノフから20世紀の非連続な音の世界が続けて演奏されただけに、その対照は鮮やかで半世紀の時の流れがどの聞き手にも手に取るように感じられた。
 独奏者はフランス人に人気のあるゴーチエ・カプソンだった。ロストロポーヴィチのために書かれ、「チェロのあらゆる技法と表現の可能性を探求した」だけに、単なるヴィルトゥオーゾには手が届かない。独奏者の詩情の不足を補って余りあったのが静かな吸引力を持ったプレトニョフが自在に操ったオーケストラだった。
 休憩後はグラズノフの「交響曲第6番」で再び悠揚とした時間が流れていた19世紀に遡行した。厳かな深みのある低弦でスタートし、第二楽章(アンダンテ)ではあくまでも穏やかで優しいテーマが耳を捕らえる。澄んだ中にもメランコリーを湛えたクラリネットのソロは秀逸だ。最終楽章のフィナーレではシンバルの連打とトロンボーンの厚みのある音が咆哮し、華やいだ音の祭典となった。抑制された身振りと鋭い視線のプレトニョフが自在にオーケストラを操っている姿そのものも観客にとっては見逃せないスペクタクルとなっていた。

三光 洋(音楽ジャーナリスト / パリ在住)



プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団 2012年日本公演
2012年6月15日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
 ヴァイオリン:樫本大進
2012年6月23日(土) 14時開演 横浜みなとみらいホール
 ピアノ:河村尚子
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公演の詳細はこちらから

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