2010年05月25日

絶好調!サロネン&フィルハーモニア管弦楽団

 来日公演を目前に控えたエサ=ペッカ・サロネンとフィルハーモニア管を5月23日に本拠地ロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールで聴いた。プログラムはベートーヴェンの序曲「命名祝日」、ドヴォルジャークのチェロ協奏曲(独奏:アルバン・ゲルハルト)、そして来日公演でも演奏するシベリウスの交響曲第2番というものベートーヴェンの第一音からこのコンビの現在の絶好調ぶりを確信した。ロイヤル・フェスティヴァル・ホールは日本のコンサート・ホールにくらべれば響きの乏しいホールであるが、冒頭の和音がなんとたっぷり豊潤に響くこと!思わずサントリーホールか楽友協会ホールにいるのかと錯覚しそうだった。たしかにフィルハーモニア管のサウンドは伝統的に名高いが、今ふたたびその輝かしいサウンドがサロネンによって色鮮やかに蘇った印象だ。
 サロネンの手にかかると、めったに演奏されないベートーヴェンの「命名祝日」序曲作品115も、第8交響曲と第9交響曲のあいだに作曲された、ひじょうに工夫を凝らされた作品として立ち上がってくるから不思議だ。古典的な枠組みの中で、驚くような不協和音があったり、第九の第3楽章を予感させる楽想が出現したりと、発見に満ちた秀逸な演奏であった。
 ドヴォルジャークのチェロ協奏曲は、たとえばロストロポーヴィチらの演奏に見られるさまざまな因習(たとえばルバートの多用など)を取り除こうとした現代的なアプローチであった。これは独奏のゲルハルトとサロネンの両者の考えが一致したアプローチだと思われるが、少なくとも第1楽章はきびきびと進みすぎて、やや印象が薄かった。でも続く第2楽章のチェロの情感のこもったソロ、また第3楽章の軽快なテンポ運びとリズム感は新鮮に響いた。
 そしてメインのシベリウスの交響曲第2番。サロネンにとってシベリウスはお国ものだが、本人は長いことシベリウスの音楽に反抗心を持っていたという。先だって行ったインタビューでは、シベリウスの2番はもちろん子供のころから親しんできた曲であるが、実は10代に入った頃からこの曲を激しく嫌うようになったと語ってくれた。以下、インタビューの一部をご紹介しよう。

 「当時はシベリウスの音楽全体が嫌だったのですが、特にこの第2番は愛国主義的な熱情、大仰さ、チャイコフスキー風の大げさで感傷的な感情表現など、私の嫌いなものをすべて象徴するような曲に思えたのです。ただその一方で、私の中のどこかにこの曲に心動かされる部分もあり、知性派かつラディカルな青年であった私としてはひじょうに複雑な思いでした。
 私がシベリウスの音楽に目覚めたのは、80年代前半にミラノでカスティリオーニに作曲を学んでいた時でした。そもそもイタリアに留学した理由のひとつは、シベリウスから逃れられる場所だと思ったからなのです。ある日、作曲のレッスンを終えて近くの古本屋に入ったところ、隅に積んである本の中にシベリウスの『交響曲第7番』のミニチュア・スコアがあって、たしか300リラとか、コーヒー1杯の値段ほどだったので、買い求めてさっそく帰りのバスの中でスコアを読み始めました。そしてその時に初めてシベリウスの音楽がいかにすばらしく独創的で、さまざまなレヴェルで同時に機能しており、曲全体のまとめ方がいかにユニークであるかを悟ったのです。
 今でもその瞬間のことはよく覚えています。それが私がシベリウスの音楽に戻るきっかけとなったのです。シベリウスをシベリウスたらしめているのはいわば有機的な形式とでもいえるプロセスですが、それは『交響曲第2番』において始まるのです。
 このような経緯で私はシベリウスの音楽に戻っていったわけですが、それでも第2番はあまり多く指揮していません。今年は特にこの曲をいろんなところで指揮する予定なので、経験を積んだ指揮者としてこの曲に取り組むことを楽しみにしています。」

 さて、日曜日の演奏を聴くかぎり、もはやサロネンの中にはシベリウスに対するアンビヴァレントな思いはないと見た。シベリウスの第2番においては静寂が重要な役割を果たすが、第1楽章の冒頭の音型は静寂の中からすっと立ち現われるようで、そのさりげない美しさにたちまち引き込まれた。しかも曲を通してたくさんのテンポ・チェンジがあるが、サロネンは有機的なテンポ運びによって、推進力を失うことなく、しかも立体的な響きを築き上げた。まるで深い森の中を歩きながらときおり光が差し込んでくるようなイメージであった。
 サロネンはスコアの深い分析によって曲のそれぞれの局面において作曲家が意図したことを読み取り、それを的確かつダイナミックな棒で表現する手腕に長けている。そしてフィルハーモニア管の奏者たちは全員サロネンのタクトと心をひとつにして、100パーセント打ち込んだ演奏を聴かせた。
 ロイヤル・フェスティヴァル・ホールでこれだけの輝かしい演奏を聴かせてくれたのだから、日本の各地の音響のすぐれたホールではいっそうの名演を実現してくれることは間違いないところだろう。ぜひ絶好調のサロネン&フィルハーモニア管をお聴き逃しなく!


後藤菜穂子(音楽ジャーナリスト 在ロンドン)



≪来日公演情報!≫
5月31日(月) 19時開演 サントリーホール
6月2日(水) 19時開演 サントリーホール
phil_flyer.jpg
公演の詳細情報はこちらから
posted by Japan Arts at 16:02| レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月21日

今、神尾真由子のメンデルスゾーンを聴くことへの大きな期待

 神尾真由子がメンデルスゾーンの協奏曲を弾く。ならばすぐにでも耳にしたい。5月12日NHKホールにおけるビェロフラーヴェク指揮/BBC交響楽団とのシベリウスの協奏曲を体験した今、その思いひとしおだ。
kamio.jpg
 彼女の特徴であり、チャイコフスキー・コンクール優勝以来さらに凄みを増した鮮やかな技巧と、渾身のボウイングがもたらす力感に溢れたヴァイオリン演奏は、この日ももちろん聴衆を魅了した。だがそれに増して耳を捉えたのは、随所で聴かせた繊細な音と陰影に富んだ表情である。数年前のシベリウスに比べて、表現のキャパシティや振幅が、がぜん広く大きくなった。冒頭のソロからデリケートな質感が耳を奪い、バッハあるいはパガニーニの無伴奏曲さえ思わせる変幻自在の表情に驚嘆させられ、優れた物語の如き雄弁な音楽に酔わされる。緊張感と美感相持つスケールの大きな演奏を披露した彼女は、ロンドン5大オーケストラの一角BBC響をも圧倒する存在感を示し、深化を強く印象付けた。
 そこで次はメンデルスゾーンだ。優美で繊細なこの名曲ならば、“あたたかくビロードのよう”と形容される神尾の音色が生きると同時に、先のシベリウスで聴かせた深化=デリケートな質感がよりいっそう効果を発揮するに違いない。そして同曲は、高度な技巧とドイツ音楽らしい力強さも同時に要求される。その点においては、彼女の真骨頂たる強靭さが当然モノをいう。今回は、他の女流奏者とは一線を画し、以前の神尾ともまた違った、鮮烈なメンデルスゾーン演奏への期待が募る。
 加えて共演が、今や世界に冠たる実力派、I.フィッシャー指揮/ブダペスト祝祭管であるのも興味を倍加させる。表現力の豊かさにおいて一頭地を抜く彼らが、単なる伴奏に終始することなど有り得ない。神尾の熱演といかに同化し、競奏していくのか? 耳目を離せぬステージとなる。

柴田克彦(音楽ライター)


kamio_flyer.jpg≪フィッシャー指揮 ブダペスト祝祭管弦楽団≫

6月23日(水) 19時開演 大宮ソニック・シティ 大ホール 
曲目:
ロッシーニ:歌劇「アルジェのイタリア女」序曲
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン:神尾真由子)
シューベルト:交響曲第8番「ザ・グレイト」

<チケット>
インターネット:こちらからご購入(東京) こちらからご購入(大宮)
TEL:ジャパン・アーツぴあ 03-5237-7711

詳しい公演情報はこちらから

※画像をクリックするとPDFが起動し内容をご覧いただけます。
posted by Japan Arts at 16:05| レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年03月15日

ブダペスト祝祭管弦楽団に出演するヴァイオリンのヨーゼフ・レンドヴァイの演奏

 6月にイヴァン・フィッシャー指揮ブダペスト祝祭管弦楽団のソリストとして来日するヴァイオリンのヨーゼフ・レンドヴァイ。2月末、彼が共演するブランデンブルク交響楽団の「ハンガリーの夕べ」を聴いた。
IMG_2459.jpg
 前半、レンドヴァイは、舞台袖からユダヤの民謡の旋律を1人弾きながら登場。そのままサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」に移行するという演出だったのだが、有名なジプシー・ヴァイオリン奏者の父親を始めロマ音楽の血を受け継ぐ彼の舞台姿は、どこかただ事ならぬ雰囲気を漂わせていた。濃厚な歌い回しの前半から一転、アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェに入るとついにその実力を見せつけた。ものすごいテンポと溢れんばかりのパッションで弾き込みながら、1つ1つの音の粒立ちが尋常ではない。かの通俗名曲をこれほど見事な演奏で聴くのは初めてだった。もちろんお客さんは熱狂!
 後半では、ツィンバロン、コントラバスのアンサンブル仲間とモンティの「チャールダッシュ」やジプシー音楽のナンバーを、即興を交えながら披露し、最後のブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」でも途中からオケの演奏に加わって、聴衆の心を完全に鷲掴みにしてしまった。とにかくレンドヴァイの存在感が際立ち、オーケストラが完全に引き立て役に回ってしまったのは気の毒なほどだった。血の通ったカンタービレと高度なテクニックが融合し、ヴァイオリンという楽器を聴く根源的な喜びを味わわせてくれる何かが、この人の音楽にはある。

文・写真:ベルリン在住 中村真人


≪イヴァン・フィッシャー指揮 ブダペスト祝祭管弦楽団≫
budapest_flyer.jpg6月21日(月) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
曲目: 
ブラームス:ハンガリー舞曲 第7番 ( I.フィッシャー編曲)
ブラームス:ハンガリー舞曲 第10番
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 (ヴァイオリン: ヨーゼフ・レンドヴァイ)
ブラームス:交響曲第4番

6月23日(水) 19時開演 大宮ソニック・シティ 大ホール
曲目:
ロッシーニ:歌劇「アルジェのイタリア女」序曲
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン:神尾真由子)
シューベルト:交響曲第8番「ザ・グレイト」

<チケット>
インターネット:こちらからご購入(東京) こちらからご購入(大宮)
TEL:ジャパン・アーツぴあ 03-5237-7711

詳しい公演情報はこちらから

posted by Japan Arts at 17:36| レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月01日

スロヴァキア室内オーケストラ&錦織健 日本ツアー初日秋田公演(1月30日)レポート

「ブラーヴォ!」飛び交う大成功!!
100130_1118~01.jpg
 「弦の国」ともいわれるスロヴァキアはグルベローヴァやドヴォルスキー兄弟など数多の名歌手を産んだ「歌の国」でもあります。今回の日本ツアーでスロヴァキア室内オーケストラがパートナーとして選んだのが我が国屈指のリリック・テノール 錦織健。互いを尊敬しあい、丁寧に作られたアンサンブルは大きな感動をもたらします。また木の温もりに溢れ、豊かな響きを持つ秋田アトリオン音楽ホールとスロヴァキア室内オーケストラの弦の音色、錦織健の歌声がまろやかに溶け込み素晴らしいコンサートとなりました。
前半に演奏されたヘンデルの名曲の数々は錦織の十八番。彼のノーブルな歌声にバロックのレパートリーはぴったりで聴きながら思わず「うっとり」とさせられます。幾度も歌っているレパートリーですが、研究を欠かさない錦織健。常にベスト・パフォーマンスを目指すプロフェッショナリズムに支えられた素晴らしい歌唱に会場から大きな「ブラーヴォ」の声が飛びました。
 もちろん名曲/ヴィヴァルディ「四季」〜「春」やバッハ「ブランデンブルク協奏曲第3番」では暖かな音色、綿密なアンサンブル、豊かな歌心とメンバーそれぞれの名人芸による演奏で会場は大きく沸きました。前半最後に演奏されたメンデルスゾーンは「マタイ受難曲」の復活上演やバロックの復興にも努めたことでも知られており、芸術監督/ダネル氏のプログラミングの妙を感じます。
100130_1135~01.jpg
 後半のテーマはモーツァルト。バロック・レパートリーと共に錦織健が最も得意とするレパートリーです。モーツァルトの名アリアの数々はオペラの場面を思い浮かべさせられる熱演で会場の盛り上がりは最高潮に達しました。アリアの間に挟まれたフンメル、ハイドンの可愛い小品の数々もアリアに素敵に寄り添います。プログラムの最後は「小夜曲」という意味を持つセレナーデ「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。きびきびとした演奏と練り上げられたアンサンブルによる名演で、この曲の魅力を余すことなく伝え、プログラムは締めくくられました。
 アンコールはスロヴァキア室内オーケストラの演奏会では定番の日本のあの名曲に錦織健が共演。他の会場のお客様のためにここでは内緒ですが、お楽しみに!!

≪来日公演情報≫
2月9日(火)19時開演 東京オペラシティ コンサートホール 
2月11日(木・祝)14時開演 横浜みなとみらいホール
slovak_flyer.jpg
詳しい公演情報はこちら

posted by Japan Arts at 12:38| レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月29日

スロヴァキア室内オーケストラが来日!!リハーサル・リポート

スロヴァキア室内オーケストラが3年ぶりに来日!
早速リハーサルが行われました。
00340011.jpg
「ダネル一家」とも言われるように、芸術監督のエヴァルト・ダネル氏を中心とした家族のような彼ら。暖かく包み込むような響きを持つアンサンブルを聞かせてくれます。
今回で4度めの共演となる錦織健さんもリハーサルに参加。 
00340004.jpg
ヘンデルやモーツァルトのオペラのなかから名曲揃いのプログラムを、1時間も歌いっぱなしの錦織さん・・・熱のこもったリハーサルが続きます。
アンコールには、皆様におなじみの素敵な名曲が用意されました。芸術監督のエヴァルト・ダネル氏を中心にみなさんで意見を出し合いながら、優しく懐かしい響きにアレンジされていきます。こちらもどうぞお楽しみに!

≪来日公演情報≫
2月9日(火)19時開演 東京オペラシティ コンサートホール 
2月11日(木・祝)14時開演 横浜みなとみらいホール
slovak_flyer.jpg
詳しい公演情報はこちら

posted by Japan Arts at 13:24| レポート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。