2012年05月23日

ユーリ・バシュメットがマスタークラスを開催!

ユーリ・バシュメットがモスクワ・ソロイスツを率いてまもなく来日します。
今回はモスクワ・ソロイスツ結成20周年記念のワールドツアーの一環で、5月28日(月)の東京オペラシティコンサートホールでは日本で唯一の公演となります。
この本公演前日にユーリ・バシュメットが特別公開レッスンを行います。
どなたでも聴講はできますので、ぜひご来場ください。

【ユーリ・バシュメット マスタークラス】
日時:5月27日(日)14:00〜16:00
会場:東京音楽大学 J館スタジオ
http://www.tokyo-ondai.ac.jp/accessmap/index.html
今回は3名の学生を指導します。

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ユーリ・バシュメット&モスクワソロイスツ合奏団
ソプラノ:森麻季
2012年5月28日(月)19:00東京オペラシティ コンサートホール

<曲目>
 テレマン:ヴィオラ協奏曲 ト長調 <ヴィオラ:ユーリ・バシュメット>
 バッハ:<ソリスト:森麻季>
  “全地よ神に向かって歓呼せよ”〜カンタータ第51番より
  “あなたがそばにいたら”〜「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖」より
  “至高者よ、あなたの恵みを”〜カンタータ第51番より
 パガニーニ:ヴィオラ協奏曲 〔ヴィオラ:ユーリ・バシュメット〕
 チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ
 チャイコフスキー:弦楽セレナーデ
詳しい公演情報はこちらから
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2012年05月22日

旅をするハープ

文:小田島久恵(音楽ライター)

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 グザヴィエ・ドゥ・メストレがラルテ・デル・モンドと共演した最新作『ヴェネツィアの夜』には、まぶしいほど明るい色彩と、空気に遊ぶ幸福な音の粒子があふれている。凛として硬質なハープの音と、ピリオド楽器を使用したアンサンブルの調和が、美しい絵画のようなヴィジョンをもたらし、聴き手を瞬時に「ここではないどこか」へ運んでいく。旅をする音楽だ。18世紀ヴェネツィアの画家、ティエポロのフレスコ画を思い出した。神々や天使、天を駆ける駿馬、壮麗に着飾った貴族たちが、パステルカラーの壁画や天井画の中で生き生きと躍動している。息を吹き返すことを待ち望んでいたインスピレーションが、閉じ込められた空間から飛び出して、一気に広い場所に躍り出た感じ。音楽からはそんな幸福な解放感があふれ出している。

 メストレは、ハープという楽器を「自由にさせたい」と思っている人なのだろう。この楽器にまつわる定番のイメージを飛び越えて、もっと自然で生き生きとした役割を与えようと冒険する。彼が採り挙げる「ヴェネツィア生まれ」の曲たち――ヴィヴァルディの協奏曲は、もともとヴァイオリンやリュートのために書かれたものだし、有名な「四季」は言うまでもなくヴァイオリン協奏曲の名曲だ。アルビノーニのト短調のアダージオは、20世紀にレノ・シャゾットの編曲した弦楽合奏とオルガンのための曲が有名だし、マルチェッロの曲に至ってはオーボエのためのコンチェルト。それを、最初からハープのために書かれた曲であるかのように、大胆に再構成してみせた。バッハが「クラヴィーアのために」書いた曲は、チェンバロでもフォルテピアノでもモダンピアノでも演奏することが許されているが、同族の鍵盤楽器同志のシフトとは少し違う。もっと自由で無制限なのだ。構造の異なる弦楽器や管楽器の曲から、みごとにエッセンスを抜き取った。曲の内部に入り込み、通底しているスピリットを引き寄せて、ハープに落とし込むという、画期的な試みをしている。

 ハープとアンサンブルの関係は、最初から楽譜に書かれていたかのように自然だ。コンセプチュアルというよりとても有機的で、優しい愛情に溢れている。メストレのソロも秀逸。優雅なだけではなく、ダンサブルなリズムを内包していて「踊る音楽」としてのバロック音楽の野性味を、ところどころで浮き彫りにしているのだ。既にこの組み合わせで世界ツアーが行われ、各地から熱狂的な反響が届いている。「幻惑されるような」「魔法のような」というのが、聴いた人々が共通して抱く印象のようだ。色と香りが溢れ出す典雅なヴェネツィアの「音の絵」は、聴衆を一人残らず魅了し、音楽が導く旅の世界に誘ってくれるはずだ。




メストレ、2012年来日記念盤『ヴェネツィアの夜』が発売中!
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「ハープの貴公子」メストレの新録音は、オーストリアのピリオド楽器によるオーケストラ、ラルテ・デル・モンドと共演のアルバムです。ヴィヴァルディとマルチェッロのバロックの巨匠たちのヴァイオリンやリュートやオーボエのための名曲をハープ用にアレンジして、聴き手を17世紀のヴェネツィアに誘います。マルチェッロのオーボエ協奏曲のアダージョ「ベニスの愛」や「アルビノーニのアダージョ」など、有名曲を多数収録。
¥1,467(税込)
Sony Music Shop


日本来日公演!
≪メストレ&ラルテ・デル・モンド≫

2012年6月1日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
ヴィヴァルディ:歌劇《オリュンピアス》より序曲 RV.725 ★       
ヴィヴァルディ:ハープ協奏曲ト長調 RV.299 (原曲 ヴァイオリン協奏曲集 Op.7より 第2集-8)★アルヴァース:マンドリン                   
マルチェッロ:ハープ協奏曲 ニ短調 (原曲 オーボエ協奏曲) ★               
ドゥランテ:弦楽のための8つの協奏的四重奏曲 ヘ短調                
ヴィヴァルディ:ハープ協奏曲 二長調 R.V.93 (原曲 リュート協奏曲) ★         
ヴィヴァルディ:「四季」より“冬” ヘ短調 ★                       
★ハープ独奏 グザヴィエ・ドゥ・メストレ
公演の情報はこちらから
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2012年05月21日

飯森範親&山形交響楽団 with ダニール・トリフォノフ公演初日、大成功!

 日本のオーケストラ定期演奏会初出演。「肩に無駄な力が入らないようにするため」と楽屋で入念にストレッチを行うトリフォノフ。「この曲を弾くときはこのストレッチでここの筋肉をほぐし、あの曲の時には・・・」とストレッチの解説をスタッフにしてくれました。周りからは不思議な様子に見えたことでしょう。
 開演前は「ちょっと緊張する」と言っていたトリフォノフですが、演奏が始まると何かが舞い降りてきたかのように曲にのめり込んでチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を弾いていました。マエストロ飯森は推進力あるトリフォノフのピアノを「兄貴分」のように温かく優しく引っ張っていく。オーケストラのクールでいてエネルギーに満ち溢れた力強い演奏の中で、トリフォノフが自在に泳いでいるかのようでした。
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 舞台袖に戻ってくるやいなや、スタッフに「マエストロ飯森はすごいよ!オーケストラもすごくクリアーで素晴らしい。こんないい雰囲気で演奏できて本当に嬉しい。こんな経験めったにないよね!いい思い出になるなあ。」と熱っぽく語ってくれました。お客様の熱い拍手やブラボーに応えるため、何度もステージに戻っていきました。よほど楽しく演奏できたのか、アンコールは2曲も!
 楽屋でもオーケストラのメンバーからたくさんの拍手を受けていました。「ずっと共演を楽しみにしてきましたが、本当に素晴らしかった。私たちも楽しかった。」という言葉もいただきました。
 マエストロ飯森もトリフォノフを「50年にひとりの逸材。自分自身、このようなアーティストと共演するのは初めて。音色が多彩であり、音のレンジ(幅)が広い。自由な解釈が楽譜の中で、めいいっぱいに再現されている。素晴らしい。」と大絶賛。
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お客様からは「いつもの山響とはまた一味違ったコンサート。大変楽しかった。」「チャイコフスキーの協奏曲はよく聴いているけれど、こんな演奏は初めて。」というコメントもいただきました。
耳の肥えた山形のお客様たちを熱狂の渦に飲み込んだ飯森&山響&トリフォノフ、聞き逃せません!



山形交響楽団創立40周年記念
さくらんぼコンサート2012
飯森範親指揮 山形交響楽団 東京公演
〜2011年チャイコフスキー国際コンクールの覇者、トリフォノフをソリストに迎えて〜

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6月27日(水)19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
西村朗:創立40周年記念委嘱作品
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73
公演の詳細はこちらから

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2012年05月17日

「音楽は私の人生そのもの」 ユーリ・バシュメット 来日直前インタビュー

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モスクワ・ソロイスツ合奏団を設立された1992年当時のお気持ちについてお聞かせ下さい。

それはとてもつらい時期でした。ロシアではペレストロイカのピークを迎えており、多くの音楽家たちは、それが経験豊かな者であれ、若者であれ国外に出たがっていました。私はその時、フランスに残ることを決めたモスクワ・ソロイスツの初期メンバーと別れることになったのです。私自身としては、ロシアを離れることは考えたこともありません。私はこの事態についてとても心配すると同時に、動揺していました。そしてある時、親しくしているスヴャトスラフ・リヒテルの夫人であるニーナ・ドルリアクに、オーケストラがフランスに留まることにしたため、今後どうして良いかわからないということを打ち明けました。そうすると、彼女は驚くようなことばをかけてくれたのです。「ユーリ、才能ある若い音楽家たち、音楽院の学生たちは本当にたくさんいて、彼らはあなたの支えを必要としているのですよ。」そこから、当時のモスクワ音楽院の最も優秀な在学生および卒業生から成るモスクワ・ソロイスツを結成する運びとなったのです。それ以来、私たちは共に演奏活動をしています。一番興味深いのは、団員の75 パーセントの者はすでに20 年間在籍していることです。もちろん、今では彼らも大人になり、家族や子どもたちがいます。でもわれわれがこの20 年間一緒に演奏してきたという事実が、私にとってかけがえのないことであり、貴重なことなのです。

今日のモスクワ・ソロイスツの最も優れている点についてご紹介いただけますか。
20 年間にわたって率いてきたアンサンブルについて、特長をひとつだけ挙げることは難しいことです。
世界中のいかなる室内楽団とも一線を画する点はいくつかあると思います。ひとつには、われわれは外国人とロシア人の作曲家による、バロック音楽から20 世紀音楽にいたるまでの極めて幅広いレパートリーを誇っています。また作り出す音―イントネーションと色彩―も極めて特別なものです。私たちは20 年間を費やしてこのような音作りに努めてきました。われわれのアンサンブルの音は世界中のどのオーケストラとも異なるものだと思います。これが音楽と人間の共同体の力というものです。人は20 年もの間一緒に働いていると、一体感を持つようになり、お互いの個々の性質について精通するようになります。これが、演奏する音楽に浸透するようになるのです。
そうやって一体となって演奏するように努める演奏会が、毎回特別なものであり、過去のいかなる演奏とも違うことが、私にとってとても重要なことです。丸暗記したような、うりふたつの演奏などあり得ませんし、常に何か新しく、新鮮なものを見出すことができるでしょう。少なくとも、このことを私たちは目指しています。

弦楽オーケストラに魅了されていらっしゃるのはなぜでしょうか。
それは複雑な質問です。ご存知の通り、私はそもそもヴィオラしか演奏していませんでした。もちろん、ヴィオラにはヴァイオリンやピアノのような膨大なレパートリーがありません。ある時、私は自分が演奏し得る音楽を拡張したり、さまざまな企画や創造的なアイデアを実現したりするために室内楽団を創ることにとても魅力を覚えたのです。そして今や20 年の長きにわたって弦楽合奏団を率いているわけです。この10 年間は交響楽団も率いていますが、弦楽オーケストラはいわば私にとって初恋のようなものでとても大切なものなのです。

森麻季さんの魅力についてお聞かせください。初めて共演した時には、どのような印象を持たれましたか。
森麻季さんとは数年前、前回われわれモスクワ・ソロイスツが来日した折に初めて共演しました。彼女の歌、趣向、そして音楽性にはたちまち魅せられました。私たちのコンサートにソリストとして迎えた森麻季さんとは非常に楽しく、興味深い話をすることができました。そこで、この度の20 周年記念ツアーの企画と東京での演奏会を実現させたいと思った時に、森さんをソリストとして招くことをただちに思いついたのです。彼女が今回の来日公演に参加してくれることを大変うれしく思っています。演奏会の夜に光彩を添えてくれることは間違いないでしょう。

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今回のプログラムのそれぞれの作品についての聴きどころを教えてください。
テレマン、バッハ、パガニーニ、そしてチャイコフスキーによる作品のそれぞれについて。
この度の東京での記念公演のプログラムでは、極めて多彩なレパートリーをご披露します。観客の皆さまに楽しんでいただけるように考えたものです。ですから、私自身がさまざまな時代の作曲家による作品を演奏します。最初はテレマンの協奏曲ですが、これはバロック音楽です。次のパガニーニによる協奏曲は、モスクワ・ソロイスツとしか私は披露することはありません。この作品はパガニーニによる四重奏曲の一つを編曲したものですが、これにおいてパガニーニ自身がヴィオラを弾いていたことが、豊かに拡張された、完全なヴィオラ・パートが残されていることからうかがえます。何年も前に、私たちはこれをヴィオラの独奏と弦楽アンサンブルのために編曲しました。さらに私は、チャイコフスキーによる弦楽四重奏曲から有名なアンダンテ・カンタービレを弾きます。
そして、オーケストラは私の指揮によりチャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」を演奏します。これはわれわれが20 年間演奏し続けてきた曲のひとつであり、これによって世界的な名声が得ることができました。そしてコンサートの第一部では森麻季さんと共に、バッハのアリアをお届けします。重ねて申し上げますが、このプログラムはとても華やかで、多彩で豊かなものになっていると思います。

20年後の記念行事としては、バシュメットさんとモスクワ・ソロイスツはどのようなことを計画されているのでしょうか。

まずは、その20 年間を生きることから始めねばならないでしょう。次なる20 年がアンサンブルにとって創造的で音楽性あふれるイベントで満たされていることを願いますし、さらなる発展が続くことを期待しています。もっとも、過去の20 年間を振り返り、成し遂げてきたことに思いをめぐらせますと、喜びと誇らしい気持ちに満たされます。中でもロシア、そしてソビエト史上初めてのグラミー賞を受賞し、しかもグラミー賞50周年授賞式でその栄誉を受けたことはとりわけうれしいことでした。多くの素晴らしい演奏会がありましたし、さまざまな国の最高のソリストたちとの協力関係がありました。しかし私は、すべてのアンサンブルが、将来を見据え、斬新で創造的な計画を実現させていって欲しいと思っています。
モスクワ・ソロイスツの15 周年の時には、ロシアにおける39 都市で42 回の演奏会を行うという前例のないツアーを敢行しました。この度の20周年を記念して、われわれはすべての大陸における主要なホールでの演奏を予定した大規模な世界ツアーを行います。20 年という時を経て、私たちにはいろいろと考えるべきことがあり、さらに大きなことに挑むつもりです。


音楽の役割についてお聞かせください。また、バシュメットさんご自身にとって音楽とは何でしょうか。
音楽は私の人生そのものです。この質問にユーモアをもってお答えするならば、音楽は私の趣味であり、転じて職業となったとお話しするでしょう。私にとって音楽とは、芸術の最高の形態です。それは完全に瞬間のもので、人間の感情を焦点としているものです。真の音楽とは人を高め、受容性に富む人間となるよう導きます。しかし、音楽はもちろんある種神聖なものです。ひとつの作品をさまざまな音楽家たちが演奏した時、なぜそれが聴衆に異なった印象を与えるのかについて、完全に説明できる人はいません。
もし私が音楽を学んでいなければ、人生の指針をいかに見出していたか想像することもできません。音楽こそが、日々私に喜びを与えてくれるものなのです。



ユーリ・バシュメット&モスクワソロイスツ合奏団
ソプラノ:森麻季

2012年5月28日(月)19:00東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
 テレマン:ヴィオラ協奏曲 ト長調 <ヴィオラ:ユーリ・バシュメット>
 バッハ:<ソリスト:森麻季>
  “全地よ神に向かって歓呼せよ”〜カンタータ第51番より
  “あなたがそばにいたら”〜「アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖」より
  “至高者よ、あなたの恵みを”〜カンタータ第51番より
 パガニーニ:ヴィオラ協奏曲 〔ヴィオラ:ユーリ・バシュメット〕
 チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ
 チャイコフスキー:弦楽セレナーデ
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2012年05月09日

パーヴォ・ヤルヴィ マーラーを語る

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―今回のご来日では、マーラーからは第5交響曲を演奏なさいますね。マーラーの全交響曲の中で、第5をどのように位置づけていらっしゃいますか?

ヤルヴィ:私はマーラーのすべてが好きですが、第5はおそらく、彼の最も有名な交響曲であり、中心的な作品でしょう。すべての局面において成功を約束された交響曲です。たとえば第7は、もの凄い作品で、最後の部分などはどんちゃん騒ぎに等しい。クリアでないところもあるかもしれない。そこへゆくと第5は、すべてにおいて論理的かつ有機的です。まとまりがある。まことに完璧な作品ですね。

―彼の交響曲のなかでも、ポリフォニック(多声的)なものだと思われませんか
ヤルヴィ:もちろんそうです。しかし、ポリフォニーを構成する仕方、コンビネーションをみると、決して衒学的、アカデミックにはなっていませんね。こなれたところを見せています。

―第5を演奏するときに特に気をつけることはありますか?
ヤルヴィ:
演奏するたびに思うのですが、緩徐楽章のアダージェットは非常に難しいですね。この楽章は、妻アルマへのラヴレターであり、もちろんそれも分かるのですが、他にもさまざまな層があります。ロマンティックな、愛の温かい熱情も必要ですが、ここには絶えず、何かもの悲しさが感じられます。この幸福は永遠には続かない、というような。あるいは、この後に何か悪いことが起きるという予感ですね。どこか悲劇的なものを感じます。若い女に恋をしました、というだけの話ではない。そんな一面的なものを書くほど単純な人ではなかったでしょう、マーラーは。非常に独裁的な面もあった。その気になれば、傲慢で、イヤな奴にもなれたでしょう。情熱に加え、怒りさえ混じった、なにか複雑なものが、とくに楽章の終わりにありますね。ことばで表現するのは難しいのですが。第1楽章と終楽章も手ごわい。終楽章のあの主題など(歌う)、とても柔軟性が必要です。

―あそこはシューマンの難しさと同じですね。
ヤルヴィ:そう! そのとおり。

―マーラーはこの交響曲のオーケストレーションに、最晩年にいたるまで手を加え続けました。「第1から第4までの方法論が、明らかに通用しなかったのだ」と後年記しています。このあたりは同感できますか?
ヤルヴィ:
ええ。それはきわめて実際的(現場的)な問題だったと思いますよ。マーラーは経験豊かな指揮者でしたから、若いときの作品を見返して、楽器法の弱点に気づいたわけです。なにかそこに哲学的な含みがあったわけではないでしょう。マーラーは現場に則した指揮者だったと思います。

―ドイツ語でいうHandwerk(手仕事の技)の問題ですね。
ヤルヴィ:
そう、Handwerkの問題です。ブルックナーでもこの問いは重要になってきますね。たとえば彼の交響曲第1番。最初に書いたリンツ稿がよいのか、後年に書き直したウィーン稿のほうがよいのかという点が、いつも問題になる。ギュンター・ヴァントなどは、ウィーン稿が最終結論なのだからそちらを採るべきだと言っていましたね。いっぽうでは、リンツ稿のほうがオーセンティックなんだという意見がある。こちらにこそ若きブルックナーの語法があるのであって、ウィーン稿はあまりに洗練され過ぎていると。私が思うには、作曲家が書き直したら、それが最終メッセージです。ブルックナーはたしかに、自己批判が過ぎたかもしれない。けれどもマーラーは、自分の第1交響曲を改訂し、それを使った。そちらのほうが良いものだからです。オーケストレーションがより良くなっている。少しの変更で、改善をもたらしてゆく。《葬礼》の例も同じです。その改訂されたものが、第2交響曲の第1楽章となった。そして実際、そちらのほうが良いでしょう。

―しかしその《葬礼》も、あなたは録音されていますよね。
ヤルヴィ:ええ。《葬礼》のオリジナル草稿をね。テンポの変更があったり、アッチェレランドがあったり……。しかし、マーラーはそれを改良したかたちで(第2交響曲の第1楽章として)固定させた。巨匠は常に自己改訂をする。そして常に、その結果のほうがベターである。
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―サイモン・ラトルが、かれこれ15年ほど前になりますか、「マーラーの交響曲は今後50年間演奏禁止にしたらいい」と言っていました。どう思われますか?
ヤルヴィ:ふむ……。もしサイモンがそう言ったとすれば、そこに特別な意味はないね(笑)。言葉のあやですよ。人気のある曲ばかりが演奏されている、というつもりだったのでしょう。しかし、それを言うならベートーヴェンの交響曲第5番や第9番などについても、同じことが言える。とりわけ日本では、今後50年間、第9の演奏を禁止しなくてはならない。でもそうはならないでしょう?
とくにマーラーの場合、(作品が真に生命を宿すべく)なすべきことに力を注ぐ用意があるか、それとも、ひたすら形式やアカデミックな側面を眺めるか。これによって、大きな違いが出てくると思います。この問題をほんとうの意味で、普遍的なやりかたで解き明かせるようになるまでには、時間がかかります。たとえば、バーンスタインの演奏。私は好きだったし、今も好きですが、同じ道はもう採れないでしょう。私にとって、あれはすでに、どこか流行遅れのものです。もっと熱狂的になれるはずだ。もっと説得力のある、もっとキャラクター豊かなものにできるはずだ。シンフォニックな構造を打ち出すよりも、むしろアゴーギク(緩急法)豊かな演奏で。バーンスタインのことを、当時はみな感情移入が過ぎるとか、やりすぎだと言って批判しました。しかし今では、あれでもまだ十分じゃないと私は思う。バーンスタインは、むしろバランスのとれた演奏に聞こえますよ。もっと自由になっていいのです。時代が変われば、知覚そのものも変わるのです。

―マーラーの音楽は、驚きのモメントにあふれているわけですが、演奏され過ぎるとそれがいつしか磨滅する、人々が驚かなくなってしまうと、ラトルはそんなつもりで言ったのかもしれません。
ヤルヴィ:
磨滅するということはありませんよ。指揮者とオーケストラが本物の音楽をやるならば。マーラーの音楽は、かくもパワフルで驚きに満ちている。繰り返し聴いているうちに飽きてくるポップソングなどとは話が違う。限界はないのです。もちろん、まずい演奏を繰り返していたら、そうなるでしょうけどね。

2012年3月30日 ベルリンにて取材・文/舩木篤也


パーヴォ・ヤルヴィ指揮
フランクフルト放送交響楽団
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2012年6月6日(水) 19時開演 サントリーホール
曲目:
リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調
 (ピアノ:アリス=紗良・オット)
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調


2012年6月7日(木)19時開演 サントリーホール 
曲目:
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調
 (ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン)
ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調

詳しい公演情報はこちらから

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